2007年03月12日

プログラミングって面白い?

◇教育用プログラミング言語

 10日の土曜日、国立の一橋大学で情報処理学会情報処理教育委員会の「教育用プログラミング言語ワークショップ2007」が開かれました。プログラミングを体験することにより何を学べるかを検討することを目的に「情報科学」「計測制御」「音楽活用」の3つの分科会が並行して開かれました。

 超文系、コンピューターの勉強はしたことがない私としては、プログラミング言語と聞いただけで「やめとこ」という感じですが、実行委員長の一橋大学の兼宗進先生の「コンピュータを使わないでプログラミングを学ぶ教材を紹介する」という言葉に勇気づけられ情報科学分科会という難しそうな分科会に参加しました。

◇Unplugged

 「Computer Science Unplugged」というニュージーランドのコンピューターサイエンスの研究者がわが子にコンピューターの概念を教ようと考案した教材がそれで、「Unplugged」というのはコンセントを抜いた、つまりコンピューターを使わないという意味だそうです。兼宗先生は「コンピューターの操作からプログラムまでの道のりは遠い。子どもたちにプログラムを組ませなくても、コンピューターの中で動いている論理を感得させたい。Computer Science Unpluggedは体験を通して子どもたちに小さな感動を与えながら学んでいく教材だ」と説明しました。

 教材の使い方のビデオが紹介されました。二進数の学習では、5人の子どもがそれぞれ表に「16」「8」「4」「2」「1」と書かれたカードをもって並びます。カードの裏には何も書かれていません。数字が見える場合、つまり表の場合は二進数で「1」、裏の場合は二進数で「0」として、表になった数字の合計の数を二進数で表すという教材です。例えば3は「2」「1」の合計なので、「裏 裏 裏 表 表」となって二進数の「0 0 0 1 1」が表示され、5は「裏 裏 表 裏 表」で「0 0 1 0 1」となります。「へえー」という驚きと感動がある教材でした。

 並べ替え(ソート)を学ぶ教材は、床に置いた図を使います。図はいくつかの丸を線でつないだもので、5人の子が1から5までのカードを持ってスタートラインに並び、図に描かれた線を伝って前に進みます。ルールは2人の子が同じ丸に入ったら、カードの数を比べて、大きい方が右、小さい方が左に進むというだけです。子どもたちが進んで行くと、スタートでランダムに並んでいた数字が、ゴールでは「1 2 3 4 5」ときれいに並びます。これは、2つの数字を比較して並べ替えるというコンピューターの基本的な動作を学ばせる教材で、「コンピューターって難しいことをしてるのかと思っていたけど、割合、単純じゃん」という理解と親しみを感じさせる教え方でした。

◇実践報告

 三重県松坂市立飯南中学校の井戸坂幸男教諭が「Computer Science Unplugged」を使った授業を報告しました。表が白、裏が黒のカードを、白にしたり、黒にしたりしながら方形に並べ、生徒ひっくり返させた1枚を先生が当てるというゲームから、情報の伝達の仕方と「エラー訂正」などを学ばせる授業や、それを応用して白黒のマスで絵を描き、それを数字に置き換えて伝える学習、また子守歌や文章の繰り返し部分をチェックして、「テキスト圧縮」について学ぶ授業、数人の生徒が輪になってピンポン球を手渡ししながら、ピンポン球に書かれた数字を揃えていく「ルーティング」を学ぶ授業など、いずれも生徒が一緒に動き、考える授業でした。学んでいる内容は相当高度のようですが、普段出会うことのない論理、コンピューターの中の世界を体験できるもので、数学パズルに似た面白さと、驚きがあって、生徒も楽しんでいる様子がうかがえました。井戸坂教諭は「遊びの中で学ぶ、体を使った体験、集団で学ぶという3つよさがある」と話しました。

 神奈川立松陽高校の保福やよい教諭は、生徒を2組に分けて同じカードを持っている相手を探すゲームや、互いの戦艦の位置を予測して撃沈するゲームなどでデータ検索のアルゴリズム、「探索」を学ぶ授業などを紹介しました。保福教諭は「ゲームで体を動かしながらの学習を生徒はよいと評価した。テキストや説明だけでは分かりにくいことが、体を動かすことで理解できる。『探索』についても多くの生徒が理解した」と報告しました。

◇議論

 質疑で「授業で学んだものを定着させるには、生徒が自身の頭の中で学んだものを再構成する必要があるのではないか」という質問が出ました。学んで、面白かった、楽しかったで終わらせては、生きた知識にならないという点は、発表を聞きながら「どういう方法があるのか」と考えていたことでした。保福教諭は「体験理解とプログラミングの間をつなぐものが必要で、誰でも再現できるような文章で書き出すことができればいい」と答えました。そこから日本語のプログラムの必要性、可能性などが議論されました。

◇思ったこと

 学んだことを、再構成するのに文章で表現できることが必要だと私は思っています。論理や構造、因果関係が理解できていないと文章にならないからです。ワークショップのの最初に三重大学の奥村晴彦教授がコンピューターでパワーポイント的な頭、箇条書き文化になるという懸念を話しましたが、箇条書きは事実だけを書き連ねたもので、そこに論理や構造理解がありません。パワーポイントの表現の多くは接続詞や動詞がないので、パワーポイントだけを見ても、その人の考えを理解することが難しいのはそのためです。保福教諭の「文章で書き出す」というのは、とても大事だと思いましたが、「Unplugged」で学んだことを文章にするといったとき、どの部分をどう書き表すのか、何を理解したことと理解したというのかは、難しいことだと思いました。「探索」について理解したことを文章に起こすのは、とても難しいと思います。一方で、すぐにプログラミングに結びつけるのも、いかに日本語のプログラミングであっても、理解とは異質にことのように思います。私はプログラミングをまったく分からないのでただの誤解かもしれませんが、理解したことを文章に起こすことと、プログラミングという作業の間、理解と活用の間には大きな溝があるような気がしました。

 「Unplugged」や、別の分科会のロボット制御、音楽活用は体験を通して、論理や仕掛けを学べるよい取り組みだと思いました。日本の学校教育は知識伝達が主で、論理や世界の構造や動きを理解させる教育が欠けていると感じています。それを改善していくのに、このワークショップで集会された取り組みは役立つと感じました。

 しかし、体験的な学習とその理解から、プログラミングまでの道にはたくさんの埋めるべき溝があることも感じました。私のように理解の足りない者は、ちょっとしたところでつまづきます。分かっている人には小さな階段も、大きな壁に見えます。初学者向けのテキストでも「ここまでやさしく書いたんだから分かるだろう」といった雰囲気がありますが、分からないことがあるのです。その溝を越える工夫が必要だと思います。ウェブを活用したヘルプデスク、専門家がボランティアでどんな簡単な質問にも答えるコミュニティがあればいいと思っています。ウェブの世界では、そんな情報の助け合いが進んでいます。ウェブを使って年齢、学力に関係なく教え合い、教材や教え方の問題点を明らかにして、改良していく仕組みがあればと、夢想しています。
ラベル:小中高校
posted by 平野秋一郎 at 18:36| Comment(0) | TrackBack(0) | ICTと教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月08日

デジタル教科書

◇研究会
 将来の教室環境やデジタル教科書などを検討する「教育におけるICTの活用研究会」が7日、開かれました。研究者や教科書会社の担当者約30人が参加して、熱気がある研究会でした。

 デジタル教科書は、教科書の本文や図表、挿絵などをデジタル化してパソコン画面で見たり、それをプロジェクターで拡大投影して見せたりできるICT教材です。教科書に収録されていない写真、図、グラフや発展的な教材を載せたり、教科書の一部を拡大したり、本文を朗読したり、図形やグラフを動かしたりといろいろな機能を持っています。その機能を授業の適切な場面で適切な方法で使えば、子どもたちの関心や意欲を高めたり、理解を促進したりすると期待されています。

 私は初めてデジタル教科書を見たとき、「デジタル化しただけじゃん」という感じしか持ちませんでした。電子情報ボードを初めて見たときのような驚きや「これで授業が変わる」という期待感はありませんでした。しかし、自分でいじったり、いくつかの授業実践を見たりしているうちに、だんだん面白さや可能性が見えてきました。要は使い方なのです。ICTは使ってなんぼ、の世界です。ICTが何かをしてくれるわけではなく、使った人にメリットをもたらすものです。そこらへんを勘違いしている先生がまだいるようですが。

◇デジタル教科書の紹介

 研究会では光村図書の国語、大日本図書の算数、学校図書の数学、東京書籍の英語と社会の教科書が紹介されました。

 光村図書の国語では、小学校1年生の物語「くじらぐも」を読む授業と、3年生が「ありの行列」という文章を読んで、作品の組み立てを理解する授業のビデオが紹介されました。1年生の授業では、先生は物語のリフレイン部分に注目させながら、子どもたちに天空を意識させ、挿絵を使って想像力を刺激します。そして、子どもたちに自分が空に上った気持ち、空から大地を見る視点を持たせていました。子どもたちが想像力の階段を使って高みに上る途中、「こわい」と言ったのには驚きました。怖いと思うほどに高さを感じていたのです。それくら物語の中に入っていたようです。感心しました。とても授業の上手な先生でしたが、紙の教科書と先生のテクニックだけでは、子どもたちをそこまで物語に入り込ませるのは難しいのではないか、ICT活用の力だろうと思いました。

 大日本図書の算数では、教科書の一部分を拡大して、そこに書き込みをする機能などが、学校図書の数学では図形を動かしたり、アニメーションで文章題を理解させたりする多くの機能が紹介されました。東京書籍の英語では、英文を朗読する、英文の一部の単語を隠す、単語カードの提示などの機能、社会科では資料や写真の提示機能が紹介されました。

◇議論

 デジタル教科書の利点、効果について、光村図書の担当者は「明日の授業から使えるコンテンツとして普及している」「使った先生方からは、子どもたちの集中力が高まった、特に低位層の児童の学力向上の効果があった、先生方の教材研究が進んだという意見があった」と話しました。東京書籍からは「1回の授業で生徒は20回以上音読し、30回以上リスニングした、と話した」という授業を行った先生の言葉が紹介されました。

 学校図書の数学はグラフや図形など「円の面積」「比例反比例」「図形」「一次方程式」など単元に応じてアニメーションや動かせる図形、作図ツールなどたくさんの機能が収められていましたが、委員長の山西潤一・富山大学人間発達科学部長は「提示だけに終わって、子どもの考えるプロセスの支援になっていないのではないか」という疑問を投げかけ、理解の過程を支援する機能、試行錯誤が出来る機能などを求める意見など、さまざま意見がありました。学校図書の担当者は「多くの機能を用意して、先生が取捨選択して使えるように考えた」などと答えました。

 また、教育内容の精選の結果、教科書が薄くなっている現状を指摘し、デジタルなら必要な教材や資料を盛り込めるのではないかという意見も出ました。山西委員長は「デジタル教科書のさまざま可能性を先生や父母に理解してもらうことが普及のカギ」と指摘しました。

◇思ったこと

 デジタル教科書には、「写真や図など理解促進に必要な資料をすぐに提示できる」「図形を回転させたりして子どもたちの想像力や推理力を支援する」「子どもたちの集中力、意欲を高める」――などの効果は確実にあると思います。デジタル教科書を使った授業で、子どもたちの顔を見ていて、そのことを感じます。しかし、デジタル教科書を使えばいいというものでは、もちろんありません。デジタル教科書が普及し活用されるには、多くの授業研究が必要だと思います。もっと多くの先生に試してみてもらうと同時に、PTAの会合などで父母に見てもらうことが大事でしょう。良いものだと分かれば、父母は強力な圧力団体になります。その力を生かしましょう。

 問題は、デジタル教科書の作り方、効果は教科や単元によって大きく違うことです。研究会では国語、算数・数学、英語、社会が紹介されましたが、「提示機能」が主の社会や国語、「繰り返し学習機能」が大事な英語、「思考の過程を支援する機能」の算数・数学などで、作り方は違ってくるでしょう。「思考の過程を支援する機能」をつくるのは、学習や思考についての理解が必要で、とても難しく、複雑なのだと思います。それを克服してよいデジタル教科書を作るには、たくさんの実践や実践に基づくアイデアが必要だと思います。

 そのためにはウェブを意識した取り組みが必要ではないでしょうか。ウェブ上にデジタル教科書を置いて、多くの先生に利用してもらえる仕組みがあれば、改良、改善が進むのでないかと思います。パッケージは活用に限界があります。ウェブにデジタル教科書を置いて、利用状況のログでランキングしたり、デジタル教科書コミュニティをウェブ上に作って意見を交換したり、先生方が機能を改良したり、新しい機能を付加したり、カスタマイズしたりといったことができれば、と思います。ソースの公開、著作権など多くの問題がありますが、ウェブ2.0的なアプローチを期待しています。
ラベル:小中高校
posted by 平野秋一郎 at 14:15| Comment(1) | TrackBack(1) | ICTと教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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